東京弁護士会は10月11日、アディーレ法律事務所に対して業務停止2カ月・元代表の石丸幸人弁護士を業務停止3カ月にしたと発表しました。
2016年に消費者庁が「景品表示法違反(有利誤認)に基づき再発防止を求める措置命令」を出したことに対して、東京弁護士会の懲戒委員会が懲戒の是非や懲戒内容を検討していましたが、今回、業務停止という重い処分を下しました。
今回の懲戒処分の背景とアディーレ法律事務所の今後・同法律事務所の依頼者の今後の対応はどうしたら良いのかを考えます。
アディーレ法律事務所に業務停止2カ月 事実と異なる宣伝繰り返し
http://www.sankei.com/affairs/news/171011/afr1710110025-n1.html
目次
今回の景品表示法違反(有利確認)の問題経緯
アディーレ法律事務所に対する今回の懲戒処分に至る経緯を以下にまとめました。
今回の懲戒処分は2016年に消費者庁が「景品表示法違反(有利誤認)に基づき再発防止を求める措置命令」を出したことが発端です。
もともと、アディーレ法律事務所では一定期間中に申し込むと消費者金融などへの過払い金返還請求の着手金を無料にしたり、債務整理の着手金を値引きしたりするキャンペーンをホームページに表示していました。
また、過払い金の額などの診断を無料で行うキャンペーンを約2年間、90日以内に契約解除を希望した場合に着手金を全額返還するキャンペーンを約9カ月間、それぞれ継続していましたがいずれも表示は毎月約1カ月間の期間限定としていたのです。
つまり、期間はそれぞれ約1カ月間としていましたが、実際は同様の内容のキャンペーンを毎月途切れなく続けていた訳です。一般的に民間の企業に於いては、この様な形式のキャンペーンは決して珍しい物ではありません。
期間限定と言いながら、ずっと同じキャンペーンを続けている企業や店舗は少なくありません。
しかしながら、法律事務所が同様のキャンペーンを行なって良いのか否かが、今回の問題のポイントだったと考えられます。
これに対しアディーレ法律事務所広報部は「毎月継続の有無を判断しており不当表示だとの認識はなかった。消費者庁の指摘を真摯に受け止め再発防止策を徹底する」とコメントしました。
これら一連の動きを受けて今年4月3日に東京弁護士会などの複数の弁護士会の綱紀委員会が、法人としてのアディーレ法律事務所と代表の石丸幸人弁護士・複数の所属弁護士について「懲戒審査が相当」とする議決を出しました。
その後、懲戒請求者からなされた懲戒請求を各弁護士会の綱紀委が審査を行ってきました。
中には懲戒処分を見送った弁護士会もありましたが、10月11日に東京弁護士会はアディーレ法律事務所に対して業務停止2カ月・元代表の石丸幸人弁護士を業務停止3カ月の懲戒処分を下しました。
ちなみに、弁護士事務所・弁護士に対する懲戒処分の種類は次の4つとなっています。
- 戒告(弁護士に反省を求め戒める処分です)
- 2年以内の業務停止(弁護士業務を行うことを禁止する処分です)
- 退会命令(弁護士たる身分を失い弁護士としての活動はできなくなりますが、弁護士となる資格は失いません)
- 除名(弁護士たる身分を失い弁護士としての活動ができなくなるだけでなく、3年間は弁護士となる資格も失います)
今回の懲戒処分の内容
東京弁護士会による今回の懲戒処分の内容はアディーレ法律事務所を業務停止2カ月、元代表の石丸幸人弁護士を業務停止3カ月にするという厳しい内容でした。
処分はアディーレ法律事務所の本店以外の85の事務所も対象となりますから、アディーレ法律事務所に所属する計187人の弁護士は、アディーレ法律事務所の弁護士としては2カ月業務停止となります。既に、同法律事務所のホームページは見られなくなっています。
メインのホームページ、関連のホームページ、確認できるものはほぼすべて上記のようにサーバーから削除されています。(10月14日現在)
つまり、処分発表の翌日から2ヶ月間はアディーレ法律事務所は全ての業務を停止することになります。ただ、元代表の石丸幸人弁護士を除くおのおの弁護士に対して業務停止処分が下された訳ではありませんから、おのおの弁護士がアディーレ法律事務所を離れて個別に活動することはできる様です。
現実問題として過去にも多くの弁護士事務所に懲戒処分が下されていますが、アディーレ法律事務所ほどの大手法律事務所に業務停止処分が出たのは異例中の異例です。
弁護士が1人や数人程度の小規模の弁護士事務所の場合は、懲戒処分が下されると事務所名を変更し転居して再出発する例は少なくありません。
しかしながら、アディーレ法律事務所は全国に85の事務所を持ち所属する弁護士は187人の大手弁護士事務所ですから、看板の掛け変えは容易ではありません。
したがって、今回の懲戒処分はアディーレ法律事務所の経営に与える影響は甚大と言わざるを得ません。
アディーレ法律事務所のコメント
今回の東京弁護士会による懲戒処分に対してアディーレ法律事務所側は懲戒処分の理由となった事実については認めていますが、「有利誤認は軽微であり景表法違反の認識はなかった」とコメントしています。また、石丸氏は「特別な法律がないかぎり個人が法人について責任を負わない」として、個人としての自身の責任を否定しています。
そして、アディーレ法律事務所としては事実に争いはないが「業務停止処分を受けることは行為と処分の均衡を欠く」として、日本弁護士連合会に審査請求と効力停止を申し立てる方針です。
弁護士会の懲戒処分に不服がある場合、弁護士および弁護士事務所は日本弁護士連合会と東京高裁の判断を仰ぐことができます。今後の日本弁護士連合会と東京高裁の判断が注目されます。
今後、アディーレ法律事務所はどうなるのか?
まず、10月11日に東京弁護士会がアディーレ法律事務所に対して業務停止2カ月・元代表の石丸幸人弁護士に業務停止3カ月の処分を下したことで、翌日の12日からアディーレ法律事務所は2カ月・元代表の石丸幸人弁護士は3カ月の業務停止となります。
また、他の弁護士会で懲戒の是非や懲戒内容が検討されているところもありますので、今後、懲戒処分が追加されることも考えられます。
したがって、弁護士法人としてのアディーレ法律事務所は経営的に大打撃を受けることになります。2ヶ月間の業務が停止された状態で全国に85の事務所を維持するコストは膨大ですし、187人の所属弁護士と1,000人弱いると言われる司法書士やパラリーガル・事務職員の給与を維持するのも大変です。
もしかすると、新宿事務所のようにもう一つ同系列事務所を立ち上げるということもあるかもしれませんが容易ではありません。(参考記事:中央新宿事務所と新宿事務所の違いは?)
目先の利く弁護士はアディーレ法律事務所に見切りを付けて、他の事務所に転出するか独立することを考える筈です。
アディーレ法律事務所とは関係ない弁護士として再出発できるからで、多数の弁護士の流出が懸念されます。なぜなら、石丸弁護士以外の所属弁護士が依頼者と委任契約を結び直し、裁判などを続けることは可能ということだからです。
依頼者の希望があれば一度契約を解除した上で、元の弁護士が個人弁護士として業務を引き継ぐことも可能だからです。
どうするアディーレ法律事務所依頼者の今後の対応
今回のアディーレ法律事務所の業務停止処分により、最も被害を受けるのは現在、同法律事務所に債務整理手続などを依頼中の人達です。
多くの依頼者が途方に暮れていると思われますが依頼者の立場で今後の対応を考えると、アディーレ法律事務所に相談するよりも、まず、直接、担当の弁護士に相談した方が良いと考えられます。
石丸弁護士以外の所属弁護士はアディーレ法律事務所の弁護士としては2ヶ月間活動できませんが、個人弁護士としては活動できる筈だからです。
弁護士の考え方にもよると思われますが依頼者と弁護士が委任契約を結び直し、債務整理手続や裁判などを続けることも考えられるからです。
一方、アディーレ法律事務所と同事務所所属の弁護士は一切信用できないという依頼者は、他の弁護士か弁護士事務所に依頼し直さなければなりません。
アディーレ法律事務所には依頼者の方が多数おられることから、東京弁護士会では下記のとおり臨時電話相談窓口を設け依頼者からのご相談に応じています。
臨時電話相談窓口 電話 03-6257-1007
(受付時間は午前9時から午後5時まで、土日祝日を除く)
まったく別の弁護士に依頼するという場合は、慎重に比較検討する必要があります。
追記:10月15日現在、東京弁護士会の相談窓口もアディーレ法律事務所の問い合わせもまったく繋がらない状況が続いているようです。対応については下記の記事が参考になりそうですのでご参照下さい。